社会は人の支え合いでできている

間に合わなかった 父と息子の交差点

投稿日:2019年1月9日 更新日:

こんにちは!ノアです。
アルコール依存症の5話目です。

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こちら からご覧ください。

 

ある訃報

一時期、
異動で福祉の現場を
離れたことがあります。

 

異動して間もなく、
親しくしていた
ある役場の担当者から

異動した先に
電話がありました。

 

その電話は
「Oさん、今朝亡くなって
見つかりました。」
という言葉ではじまりました。

 

「ノアさん、Oさんを心配していたから、
知らせないとと思って」

 

「だって、先月、最後にお会いした時は
元気だったのに?」

こういう知らせはいつも
「まさか」という気持ちにさせられます。

 

「脳溢血だったみたいです。

訪問した保健婦が見つけた時は、
もう亡くなっていて、

連絡をしたら息子が来ました。」

 

「息子さん、来たのですか?」

 

「来たんです。
葬式も自分がすると言ってました。」

 

連絡のお礼を言って
この電話を切ったあと

 

私は良かったと思ったらいいのか
残念に思ったらいいのか

正直のところわからないまま
1か月前に会った時のOさんを
しばらく思い出していました。

 

貼られた広報

私が初めて会った時
Oさんは一人暮らしでした。

 

アルコールを飲むと
暴力を振るうOさんに

奥さんは中学生だった
息子を連れて
数年前に
出て行ったからです。

 

奥さんと息子は
Oさんと同じ村の

離れた集落に
住んでいました。

 

Oさんの家の壁には
1枚のヨレヨレになった紙が
貼られてありました。

 

はじめはそれが何か
わからなかったのですが、

近づいてよく見ると
その紙は村の広報誌の
表紙だったのです。

 

そこには、
スーツ姿の若者や
振袖姿の女の子が
緊張した顔で
並んで写っていました。

 

成人式?

 

私は心の中でちょっと考えて
気がつきました。

 

「息子さんの成人式ですね?」

「ああ」

Oさんは言葉少なに
そう答えただけでしたが、

 

視線はその写真に
注がれていました。

 

私はそれ以上
その話題には
触れませんでした。

 

それ以上話すと
Oさんが泣き出しそうな
気がしたのです。

人間と話してない?!

Oさんは
手で漕ぐボートのような
漁船を持っていました。

 

それを一人で操って
沖で昆布を採るのですが

長い間の過度の飲酒と
下がらない血圧のため、
体力もなくなってしまい

その頃は漁も
あまりできなくなっていました。

 

「お酒は飲んでいませんか?」

「酒買わねえし」

 

Oさんの飲酒がもとで、
家族が崩壊したことは
近所の人も知っていましたし

村から出ることもなく
生活していたOさんは

お酒を買える店もなかったので
本当に飲んでいなかったと思います。

 

断酒会には
行っていませんでしたが、

 

村の診療所には
血圧を診てもらいに
ちゃんと行っていました。

 

外にはいつもOさんが採ってきた
魚や昆布が干してありました。

 

そんなある日のことです。

その日は昆布をストーブにのせて焼き
「食え」
と言って御馳走してくれました。

昆布をそうやって食べたのは
初めてでしたが

丁寧に干された昆布が
パリパリに焼かれて
不思議なおいしさがありました。

 

その時でした。

「人と話すの2か月ぶりだ」

Oさんがポツリと言ったのです。

 

私ははじめその言葉は
聞き間違いかと思いました。

 

「診療所では話さないのですか?」

「この頃は薬もらうだけだから、
話すことないし」

 

「買い物に行った時は?」

「買うものをかごに入れて
レジで言われたお金払うだけだから」

確かにそれで
用は済むだろうけれど…

 

戸惑いながらも
じわじわと事の重大さが
沁みてきました。

 

私はそれから毎月、
短時間でも
Oさんを訪問することにしました。

 

保健婦さんにも
毎月の訪問をお願いしました。

 

ほかに私にできることが
なかったのです。

 

父と息子

それから3か月も経った頃
だったでしょうか。

 

その日は珍しく
Oさんはなにか晴れ晴れとした
表情をしていました。

 

「なにかいいことでも
ありました?」

「この間、
浜で息子に会ったんだ」

 

Oさんはいつものように
ポツリと言いましたが、
笑顔はそのままでした。

 

「何か話せたのですか?」

私はちょっとウキウキしました。

 

Oさんは首を振ったあと

「船を浜に引き上げる時、
手伝ってくれたんだ」

 

言いながらその時のことを
思い出したのでしょう。

Oさんの顔が
たちまちゆがんだのです。

 

Oさんはすぐに顔を伏せました。

 

嬉しくて嬉しくて
何度もその時のことを
思い出して

 

そのことを誰かに話したくて

 

でも話し始めると…
こらえきれないものが

次々と溢れてきたのが
伝わりました。

 

私もOさんにつられて
自分の視界が
ぼんやりしてきました。

 

Oさんが泣くまいとしているのが
わかりました。

 

「息子さん、
Oさんを見ていてくれたのですね。」

 

Oさんはうつむいたまま
うなづきました。

 

「良かったですね。」

私自身がそう言うと、
次の言葉に詰まってしまいました。

 

「今日はあまり時間がないので
これで失礼します。」

言葉を探し続けた末に
私はやっと言いました。

 

Oさんはやはり
うつむいたままうなづきました。

 

私がOさんに会ったのは
この時が最後でした。

 

 

気が付いたら
なくしていた関係

 

気が付いたら
取り戻せなくなっていた

 

そんな関係があるのも
目の当たりにしたことが
あるのですが

 

Oさんのことを
思い出すたびに

 

Oさんと息子に
もっと時間があったら

取り戻せるものが
あったのではないかと

 

考えても仕方がない
そんな 『もしも』 を

今でも思ってしまう
私がいます。

 

この記事はアルコール依存症№5です。

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