社会は人の支え合いでできている

止まったままの時間 癒されない傷

こんにちは!ノアです。
心の傷という言葉を耳にします。

忘れられない辛い記憶を抱えて
それでも人は生きています。

 

ある判決

『元徴用工への賠償確定』

今日の新聞のトップ記事です。

 

時計代わりにつけたテレビで
解説していたのはこのことかと思いました。

 

植民地時代に強制労働をさせられた
元徴用工の韓国人が

新日鉄住金に損害賠償を求め
韓国最高裁が企業にこの支払いを命じた
という記事でした。

 

日本政府は韓国人個人の請求権問題は
1965年の日韓請求権協定で解決済みなのに
あり得ないという姿勢です。

 

韓国政府は司法の判断を尊重する一方で
日韓の対立拡大は望まないと発表

「被害者の傷が癒されるよう努力する」
とも表明しました。

 

韓国最高裁の判決や損害賠償を求めた人
日本政府の反応や今後の影響について
何かを言うつもりはありません。

 

ただ、この記事を見て
ある韓国の人を思い出したので、
今回は彼のことをお話しします。

 

火が使えない

私が会った時、
Tさんはすでに70代でした。

 

体格のいい明るい奥さんと
ひょろりとやせたTさんは対照的。

 

Tさんはこちらから話しかけても
「はい」とか
「いや」とか
それもうつむき加減で
返事をするだけでした。

 

Tさんと奥さんと
どちらともなく話しかけると
返事をするのは必ず奥さんなので

「Tさんはどうですか?」
と時々名指しをして話しかけました。

 

Tさんは戦争中に
朝鮮半島から強制的に連れてこられ

日本語が上手に話せないのを
気にしていたようです。

 

寡黙なTさんとは
なかなか会話が成立しなかったのですが

会って半年ほどたった時

「Tさんの名前は、
韓国語ではどう発音するのですか?」
と聞いたところ

Tさんはちょっと驚いた顔をした後
はじめて照れたように笑顔になりました。

 

「Tでいいです」

「そんなことを言わないで教えてください。」

「いや、Tでいいです」

 

とうとうTさんの名前の
ちゃんとした呼び方は
教えてもらえませんでした。

 

それから1年くらいたったころ
Tさんの奥さんが
けがをして入院しました。

 

お見舞いに行ったところ

「おとうさんが心配で」

奥さんが言いました。

 

「おとうさん、
ストーブの火もつけられないんです」

なにを言っているのか理解できませんでした。

 

石油ストーブは電気製品で
ボタンを押すと火が付きます。

 

あとはちゃんとついたかどうかを
ストーブの横の窓から確認するだけです。

 

「だから、寒くなる前に帰らないと」
奥さんはなおも言いました。

 

理解できないまま私は質問しました。

「ご飯は作れるんですよね?」

「作れないんです。火が使えないので。
店で弁当を買ったり、おにぎりを買って。
漬物はあるけど」

 

火が使えない?

どういうことだろう?

 

奥さんと別れて
Tさんのところに向かいながら
考えたのですがわかりませんでした。

 

Tさんは家にいました。

「ご飯をちゃんと食べていますか?」

「この間、おかずを買ってきたら*しょっぱくて。
水で洗ったらまずかった」

「一緒に、ごはんを炊く練習をしましょうか?」

「いいです。そのうちかあさんも帰って来るし」

その後も近くに行くと
Tさんのところに寄ることにしていましたが、
いつも同じような会話を交わすだけでした。

*しょっぱい  塩辛い

 

 

プレゼント

朝晩が冷え込み
そろそろストーブがないと辛くなる頃
奥さんの退院が決まりました。

 

Tさんはいつも電話に出てくれないので
私は直接、
そのことを知らせに行きました。

 

「良かったですね。
これでひと安心ですね。」

「ああ、良かったです」

Tさんは全身で安心したように
ため息をつきました。

 

奥さんに頼まれた近所の人が
時々、ごはんを届けてくれたり、
お湯を沸かして
ポットにいれて運んでくれたりして
何とかしのいでいましたが、

 

ストーブだけは
相変わらずつけていませんでした。

 

「じゃあ、あと1日頑張ってください。」
Tさんに玄関で別れを告げた時

「これ、もってってや」

Tさんがビニールの袋を
無造作に差し出しました。

 

「今度あんたが来たら、
やろうと思って。

庭から掘ったんだ。
女の子だから赤を選んだから。」

 

袋の中を見ると大きな球根が
ごろごろと入っていました。

 

「チューリップだ。
土に植えといたら春に咲くから」

「いただいていいんですか?」

「いつも心配してくれて、ありがとうな」

「こちらこそ沢山ありがとうございます!!」

 

私はうれしかったのです。
Tさんのプレゼントが
Tさんの気持ちが
本当に凄く凄くうれしかったのです。

 

もらった宝物

推測ですが
Tさんはもしかすると
戦時中に火で脅されたり、

 

誰かが『火』で
亡くなるのを見てしまったり

なにか火が使えなくなる体験が
あったのではないかと思います。

 

Tさんに出会った当時
私は想像力もなく

火が使えないというTさんが
ただ不思議でなりませんでした。

 

思い返すと随分と無神経なことを
言っていたのではないかと

申し訳ないやら赤面するやら。

 

まだたいした人生経験もなさそうな
的外れなことを言う若い姉ちゃんを

受け止めてくれたTさんの優しさは
私の心に残っている宝物です。

 

 

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